2007年 6月 の記事

東郷和彦 北方領土交渉秘録―失われた五度の機会

先日、本が好き!というサイトのβ版に登録した。書評をブログで書く代わりに、出版社からその本が貰えるというサイト。ほんでポチっとしたので感想を800字以上で書かないといけないのでアップ。

北方領土交渉秘録
東郷 和彦著
発売日:2007.5
出版社:新潮社
価格:\1,890
ISBN:4103047712

本書は佐藤優 国家の罠と同じく、あの騒動で外務省から追放された元官僚(当時欧州局長→オランダ大使)の書いた北方領土交渉の本。

でも、佐藤氏の著書の方が読みやすいし、断然面白い。それは、本書の解説を書く佐藤氏が、自著を「個人にこだわった視座」、本書を「鳥瞰的視座」と表現しているとおり、やはり視点の違いなのだろう。これが「インテリジェント・オフィサー」と「省幹部」との違いか。

本書は中盤の殆どが北方領土交渉の経緯にあてられているためか、外交をよく知らないでふつーに読み始めると中だるみする(中だるみした)。

読者が途中で退屈と感じるのではないかという点は佐藤「ラスプーチン」も危惧しており、前提知識のない読者が中だるみしないように巻末の解説で色々と書いてるので、本書をこれから読む人はまず解説を読んだほうがいい。

本書の佳境である(プーチン現大統領の政界登場以後のロシアとの外交が描かれている)10~13章は一番アツく、ここから最後までは歴史としての北方領土交渉の経緯ではない。東郷氏の北方領土交渉に対する思いと、一連の事件で交渉の枠組みが完全に壊されたことに対する無念さが込められている。勢い、読んでいるこちらとしてもページをめくる手が止まらなくなる。この終盤で、プーチン政権との交渉経緯を通して東郷氏が考えるところとなった、今後とるべきロシア外交のスタンスが集中的に著されており、その説得力には圧倒される。

新聞や雑誌にも、対ロ北方領土交渉について、様々な議論が掲載されるが、現実を見据えつつ、領土問題をいかに解決していくかという説得力において本書の比肩するものはほとんどないように思う。

だけど、結局、あの一連の騒動が一体何だったのかは、本書を読んでもいまいち分からない。佐藤氏の言うように、時代のけじめだと言うのも納得しがたい。騒動が沈静化し、追放された立場の人たちが説明をはじめた今こそ、追放した側からの説明も聞きたい。

「組織の中の意見を集約するのに外の力を使ったから」という組織内部の原因で国の主権に関わる領土交渉が崩壊したんだとしたら、それは本当にアホらしいことである。

あの当時、本書に書かれているような領土交渉の経緯や考え方が、行政の当事者の立場から多くの国民に理解されていれば、あんな大騒動にはならず、領土交渉は崩壊することなくは順調に進んでいたのかもしれない。

そういう意味で、外交に限らず、行政は政策決定についての情報をもっとずっと積極的に発信していくべきだとも感じる。これに限らず、行政の意図がよく理解されないままに、一部だけを変にとりあげられてネットで叩かれることはよくある話。

ネットがまだのどかだったころには、政府機関の職員が業務時間中に実名で掲示板上で政策議論を投稿してたなんてこともあったとか。そこまでいかなくても、何らかの手段で直接的に対話していくのって必要だ。

とりあえず、各省とも新着情報をフィード配信するくらいのことは最低限やらないといかんのではないか。というかフツーに不便だからフィード配信しましょうよ、広報担当官殿。

北方領土交渉秘録
東郷 和彦著
発売日:2007.5
出版社:新潮社
価格:\1,890
ISBN:4103047712


北方領土交渉秘録―失われた五度の機会

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書評/ルポルタージュ

  1. 鈴木宗男氏からの外務省に対する質問趣意書の絨毯爆撃はあいかわらずだが。 []

平成19年夏、官庁訪問。

明日、6月20日(水)からは、いよいよ平成19年度の官庁訪問が始まる。このblogを読んでいる人とも、庁舎の中で会うこともあるかも知れません。口には出さないが、ビジョンを持って面接に来てくれる訪問者の一人一人を応援したい。糞暑い庁舎、着慣れないスーツで消耗しないよう。

手嶋龍一 たそがれゆく日米同盟 ニッポンSFXを撃て

たそがれゆく日米同盟
ニッポンSFXを撃て

手嶋 龍一著
発売日:2006.7
出版社:新潮社
価格:\580
ISBN:4101381135

この本を読むまで、FSXの具体的イメージはソニックウィングスシリーズで忍者の乗機だったFSXでしかなかった。なんといっても、アメリカとすったもんだをしていたのはバブル前後。紆余曲折のあるという機体開発にまつわる経緯も、「『次期支援戦闘機は国産戦闘機!』というロマンあふれる話が、いつの間にかアメリカと共同開発になっていた、という程度にしか知らなかった。

この本は、そんな非軍ヲタのおぼろげなFSXのイメージを交渉の舞台裏を明らかにすることでリアルにしてくれる。

国家と国家の利害がぶつかり合う様、政府組織の中での権力争い、そして激しい攻防と議会工作、これらをまるで見てきたように書ききる筆者の文体には引き込まれるばかり。これは、この本の前に読んだ外交敗戦も同じだけど、出てくる日米の官僚、閣僚、政治家が、みな惚れ惚れするほどカッコいい。

この交渉の産物であるF-2戦闘機は、航空自衛隊の浜松広報館でモックアップに触れることが出来る。ここは普通に面白いから、浜名湖に行ったらぜひ足を伸ばすべき。

渡辺千賀 ヒューマン2.0

ヒューマン2.0
渡辺 千賀著
発売日:2006.12
出版社:朝日新聞社
価格:\735
ISBN:4022731222

シリコンバレーの(主に)ITエンジニアの働き方を紹介した本である。筆者の言うヒューマン2.0という働き方は、今の典型的な日本の公務員の対極にあるような働き方である。

終身雇用制度の功とは、教科書的には「雇用をコミットすることで労働者にその組織の関係特殊的能力を修得させるインセンティブを与える」ことだが、この本に出てくるようなプロフェッショナルにとっては、終身雇用は魅力にならないのは当然だろう。

公務員もだんだんとこういう働き方に近くなっていくのかもしれないし、良い悪いはともかく、各個人が組織内で修得していきたいと考える能力は変わるだろう。自分の力で再就職先を見つけろというのは、そういうこと。

    • 筆者は以下のような働き方をヒューマン2.0と呼んでいる。

    • フリーランス:組織ではなく個人で働く
    • ライフスタイルワーカー:自分の好きな場所で働く
    • チャンクワーカー:一定の期間働き、一定期間は自分の好きな生活をする
    • ポートフォリオワーカー:いくつかの仕事を掛け持ちして働く

バランスの追求

なぜ白田先生は有力政治家(担当大臣やその分野の大物族議員)ひとりに絞っての説得工作をしなかったのでしょうか。言っていないだけで試みたというのであればごめんなさいですが、それが大胆な政策変更を迫る際には、現代日本ではそれがもっとも成功確率の高い手法なのですけれども。
良くも悪くも霞が関は一般に漸進主義ですから、名案と思われるアイデアであっても、それなりに世間的認知のないものを大胆に取り入れることはなかなかありません。小泉前総理の郵政民営化が典型ですが、他方、有力政治家の決断は、そうした漸進主義の相補をなす政策決定パスとして機能しています。霞が関ではなかなか合意が得られない政策が、大臣や与党の強い後押しにより実現するというのは、少なからず見られる事例です。
それだけのエネルギ、頑張ったという自己満足を得たいがためというならばともかく、実現に少しでも近づきたいというのであれば、あちらこちらの講演で語り、雑誌記事で一般に訴え、オンライン記事でみなに訴え、審議会で官僚や学者に言いたいことを言い・・・というだけでなく、たったひとりでいいので、有力政治家を説き伏せることにその一部を割くことがよほどの近道だと思うのです。実際の政策決定過程に多少は携わる身としては。
白田先生、なんで国会議員に話をしないのですか? – bewaad.com

有力政治家を直で説き伏せることが本当は歪んでるのか、それとも、問題点を国民に訴えることで政治と行政を変えようとする白田氏の民主主義が愚直なのか。

現実に行政官の立場から言えば、政治家に対するロビーが有効であるのはそのとおりである。しかし、白田秀彰の著作から所有権概念や制度設計に興味を持って役人になった身としては、それ以外の手段を「自己満足を得たいがため」と言ってしまうのはどうなのかと思うし、政治家にロビーした方がよいと言ったところで、相手は所謂ところの「業界」である。そのロビー活動こそ自己満足で終わるのではないかとも思う。

天下り全データ~週刊ダイアモンド070623

今週の週刊ダイアモンドの特集は「天下り全データ」。同業者は皆興味あるんだろう。中吊りを見て買おうと思ったら、庁舎内の売店は売り切れていた。

UCCコーヒー エヴァ缶

人類補缶計画、再び:UCC「エヴァ缶」、復活

これはすごく懐かしい。この缶、実家の物置から全種類出てくるハズ。

広がる年金問題

先週、

政府は8日午前、年金の記録漏れ問題の原因や責任を追及する有識者7人による「年金記録問題検証委員会」を総務省に設置し、座長に松尾邦弘前検事総長を起用すると発表した。(後略)
年金記録問題の検証委、座長に松尾・前検事総長 – 日経

という報道に、「総務省の中の人、乙です…」と思っていたところ、

政府は9日、公的年金保険料の納付記録漏れ問題で、納付を示す領収書などがない場合でも年金支給が可能かどうか判断する第三者委員会を、総務省に設置する方針を固めた。社会保険庁に設けることも検討したが、塩崎恭久官房長官が社保庁との切り離しを強く主張した。塩崎氏と菅義偉総務相が調整し、制度設計やメンバーの人選を急ぐ。
委員会は東京だけでなく、総務省が各都道府県に置く行政相談窓口ごとに設ける案も浮上している。(後略)
第三者委、総務省に設置へ・社会保険庁と切り離し (日経)

との続報。行政相談のスキームってことは、行政評価局の仕事?前者はともかく、後者って、果たしてどれだけのマンパワーと時間がかかるんだろう…。

ジョン・マクミラン 市場を創る-バザールからネット取引まで-

市場を創る
ジョン・マクミラン著 / 滝沢 弘和訳 / 木村 友二訳
発売日:2007.3
出版社:NTT出版
価格:\3,570
ISBN:475712127X

NTT出版らしいテーマの良書である。翻訳文も、ヤバい経済学等と比べると固くはあるが、日本語として平易で読みやすい。

バザール、オークション、知的財産権、経済体制、政治体制、ネット取引といった様々な「市場」について、豊富な事例を引きながら、うまく市場が働くような制度とはどんなものかがトップレベルの経済学者の目で語られる。

制度への参加者のインセンティブや情報の所在、権限設定等、制度設計の基本的な部分がうまく設計されてない制度は、どう表面を取り繕っても、うまく回らない。世の中には理念だけが先行した、机上の空論以下の制度が蔓延している。その代表例が今国会で成立するかもしれない公務員法制である。

ああ、経済学を制度設計に生かして効率的な社会基盤を創ってみたい。それが出来るのが霞が関で奉職する魅力だと思う。

サマータイムはめんどくさい

小泉純一郎前首相は4日、東京都内のホテルで開かれた自民党参院議員のパーティーで、19日に閣議決定される予定の「骨太の方針2007」に盛り込まれるサマータイム制導入について「感心しない。時計(の設定を)変えるのが面倒くさい。国が強制的に夏になったら時間を早くするより、(希望する企業が)勝手にやってもらったらいい」と異論を唱えた。
毎日新聞

さすが良いことを言う。全くその通りである。サマータイム制について賛成派は試算した経済効果をもって「こんなに効果があるんです」などと主張する。

しかし、その経済効果の試算においては、生活リズムを一時間変更することの負担や、家中の時計という時計をいじらなければいけない「国民総めんどくささ」が無視されいる。これを定量化して「経済効果」から引いたらサマータイム制なんて負の経済効果しかもたらさないかもしれないよ。

やはり、サマータイムなんぞを導入するなら、全企業にフレックスタイムを導入した方が良い。「国民総めんどくささ」という社会的コストも生じないし、個人の選択で夏の長い時間と余暇を有効に使うことができるだろう。経済的な観点から、なんで国全体で時間をずらす必要があるのかが説明されていない。たんに経団連がサラリーマンに1時間余計に働かせたいだけとしか思えない。

CO2削減効果があるという環境的な観点からの主張についても気になったので検索してみたところ、

こうした差し迫った状況を背景に、京都議定書の目標達成手段の一つとして、サマータイム制度の導入が検討課題として浮上してきたのである。もっとも、サマータイム制度導入により期待されているのは、直接的な温室効果ガス削減効果ではなく、国民に対するアナウンスメントを通じた間接的な効果である。
サマータイム制度の導入に向けて – 日本総研(2005)

とのこと。実にあほくさい。温室効果ガス削減のアナウンスメントをサマータイム制の導入で行うというのは、手段の目的化、あるいはそれ以下である。経済社会と国民生活を混乱に巻き込んでまでアナウンスする必要はない。

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