通勤電車の中の広告で、私立中学の入試問題で実際に出題された設問を使った、中学受験用学習塾のものがある。今朝見かけた広告は以下のもの。

(問)
見通しのよい広い平原で、南北にのびる直線道路と東西にのびる直線道路が交差しています。太郎君が乗った自動車が南北にのびる道を北へ、花子さんの乗った自動車が東西にのびる道を東へ向かって走っています。いま、太郎君が花子さんの乗った自動車を見たとき、それはどのように見えますか。最も適当と思われるものを次のア~エの中から1つ選び、記号で答えなさい。
ア 北東の方向に走って見える。
イ 東向きに走って見える。
ウ 南東の方向に走って見える。
エ 南向きに走って見える。

という問題で、ウが正解とされている。出題者は「この問題(走っている自動車から他の自動車を見た時の動きについての問題)は高校の物理で学ぶ『相対速度』の問題です。」とのことだった。

でも、これ、相対速度の問題を意図していたとしたら、設問の作り方が非常に悪いと思う。子供向けの問題とはいえ、言葉に紛れはあるし、ひどく舌足らずだし、逆に判断を迷わせるような状況が設定されている。

まず、普通の自動車は、構造上、カニ走りができない。前後同位相になる4WS機構のついた自動車ならともかく、前輪操舵の自動車が東を向いたまま南東の方向に走るのは、スリップでもしない限りは不可能だ。だから自動車が東を向いている時点で、ナナメ方向に走っているようには「見えない」。これは、毎日目にするような身近なものについての観察眼が豊かな小学生ほど混乱してしまうだろう。自動車という設定自体がおかしく、この問題を出すなら、向きを変えずに多方向に移動できる乗り物(ヘリとかか?)を想定する必要がある。
出題者は自分で自動車を運転したことがあるのだろうか。

さらに、自分が進行している道路と直交する道路を花子さんの自動車が進行しているという状況では、何がどの方向に移動しているかを判断する上で、直交する道路自体が重要な判断材料となる。だだっ広い空間ならともかく、直交する道路があるがゆえに、「東西にのびる道」を東向きに走っている花子さんの自動車は、北行する太郎さんからは南東の方向に走っているようには「見えない」。
出題者は日々の暮らしの中で、物体の相対的な動きをどうやって把握しているのだろうか。

また、「どう見えるか」と聞かれれば、太郎君の自分が移動していることの自覚の有無も大きな観点だろうにそれには触れられていない。そもそも「どのように見えますか」という聞き方がダメ。「見かけ上の動きとしてどのように観察されますか」とかしておけばまだマシなところ、これじゃ何が聞きたいのかわからない。天動説・地動説ネタや、中・高の地学で出てくる天体の見かけの動きなんてトピックでは、観察者自身には動いている自覚がないことや、あくまで見かけ上観察される動きであることポイントなのに。

出題者こそ「毎日目にしているものに目を留めてもう少し見るというか。見抜く力が足りないと思う」し、「バーチャルなビジュアルは見ているけれど、そこに隠れている原理原則を含めて、その奥をさらに見るというところまでいっていない」のではないか。これは「空間知覚的なものかなぁ」。

…と、出題者の解説振りがなんとなく気に障ったので、それを適宜引用しつつ嫌ったらしく問題をクサしてみた。